事例紹介
埼玉県 秩父市上白久地区
- 対象災害
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- 土砂災害
経緯と目的
- 上白久地区は、その大半が土砂災害警戒区域に指定されており、地区を構成する中野区・青梅区・上サ区の3区のうち青梅区の集会施設は土砂災害警戒区域内にあった。また、市の指定避難場所の荒川西小学校は川向こうの遠く離れた場所にあり、徒歩での避難は難しい上、それに至る避難経路も崖崩れの危険性が高いことから、住民の間に不安な声が高まっていた。
- 当地区は、昭和20年頃に秩父鉄道開通により住家の移転が相次いだことから区界が複雑となっているが、地区の避難訓練等は区ごとに行っていた。そのためすぐ近くに別の区の避難場所があるにも関わらず、遠く離れた、自分の所属する区の避難場所まで避難しなければならなかった。
- そこで、区ごとではなく、地区(=町会)全体での避難計画の立案に向けた議論の場を求め、土砂災害からの逃げ地図づくりワークショップの開催に至った。
方法と内容
(第1回ワークショップ)
・ 逃げ地図づくりに先立ち、町会長や区長ら上白久地区のコアメンバーとともに、①土砂災害警戒区域の範囲、②同区域内の避難障害地点、③同区域内の堅牢な建物、④避難場所の候補となりうる施設の位置と構造等を点検するまち歩きワークショップを実施した。
・ その際、上サ区、青梅区、中野区の3地区を徒歩で確認する班と、指定避難所の荒川西小学校を含めた広域を車で確認する2班の合計5班に分かれ、1時間程度現地踏査を行った後、30分程度でその成果を地図上でまとめ、互いに発表しあって成果を共有した。
(第2回ワークショップ)
・ 第2回は、多数の地元住民の参加者を得て、土砂災害からの逃げ地図づくりを行った。最初に土砂災害と避難情報に関するレクチュアを実施した後、地区を東西に分け、それぞれの避難場所や避難経路の条件設定を厳しいものと緩いものとに分けた徒歩での避難を想定した班と、広域について車での避難を想定した班の合計5班に分かれて逃げ地図を作成した。
・ ベースマップ上で自宅の位置と土砂災害警戒区域の範囲を確認した上で(10分間)、第1回ワークショップの安全点検の成果を活用して避難目標地点と避難障害地点を設定し(20分間)、避難経路の避難時間を色塗りし、避難方向に矢印を入れた(20分間)。
・ 避難時間については、徒歩の避難は雨天時を考慮して3分間で103m、車による避難は渋滞などを考慮して3分間で450m移動するものとした。
・ 作成した逃げ地図を見ながら、気象庁の大雨警報と土砂災害警戒情報の発表時のそれぞれの避難場所、避難行動要支援者の避難方法、災害時の協力協定等について意見交換し、それらをワークシートにまとめた(30分間)。各班の成果をそれぞれ4分間ずつにまとめて発表し、参加者の間で共有するとともに、当日ゲスト参加の平田直・東大教授と田村圭子・新潟大学教授から講評を得た。
(第3回ワークショップ)
・ 第2回ワークショップで作成した5種類の逃げ地図をリライトするとともに、土砂災害からの避難計画に関する意見と課題を整理した上で、大雨時の指定避難場所までの徒歩による逃げ地図を作成した。
・ 作成した逃げ地図の避難時間は、雨天時を考慮して3分間で103m移動するもとのし、3分間ごとに緑・黄緑・黄・橙・赤‥と色分けし、指定避難場所への避難方向に矢印(→)を記入した。
・ 作成した逃げ地図を見ながら、大雨警報(避難準備情報・高齢者等避難開始)時、土砂災害警報(避難勧告)時、大地震発災時のそれぞれの避難場所と避難行動要支援者の避難方法などに関する意見をまとめ、上白久地区の土砂災害からの避難計画案を作成した。
(第4回ワークショップ)
・ 第3回ワークショップを経て上白久地区としてひとつにまとめた逃げ地図の記述内容を確認、必要に応じて修正し、中野区農村センターと青梅区公会堂と上サ区農村センターを上白久町会の大雨時緊急避難場所として指定することにした。
・ これまでの成果を地域住民に周知するため、大雨時の緊急避難場所とそこに至る避難経路と避難方向、避難行動要支援者の所在、避難方法の留意事項などを明示した逃げ地図を上白久地区の全世帯に全戸配布することにした。
・ 2017年9月3日(日)の午前に開催する上白久町会主催の防災訓練において作成した土砂災害からの逃げ地図を使った避難訓練を実施し、その結果を踏まえて、区の枠組みを超えた緊急避難場所について検討し、住民の総意をもって上白久地区防災計画を立案することにした。
成果と課題
- 土砂災害からの逃げ地図づくりは、避難目標地点と避難障害地点の設定が極めて重要であることから、事前に土砂災害警戒区域の範囲等の現地点検を行うとともに、避難に関する条件を複数設定した逃げ地図を作成したことにより、避難場所と避難方法に関する論点を絞り込むことができた。
- 上白久地区内だけでなく、市の指定避難場所の荒川西小学校を含む広域の逃げ地図も作成して比較・検討することにより、地区外に避難する場合は、避難準備情報時に、荒川西小学校に限らず、上白久地区外の安全な場所への避難を開始する重要性が明らかになった。
- 避難時間を表示した色を塗ることで、所属する区とは関係なく、どちらの区の避難場所に逃げた方が近いかが一目瞭然となり、区の枠組みを超えて避難することが3区の間で合意された。
- 避難方向の矢印(→)を入れることで、車の利用に関する交通規制の必要性が明確になった。すなわち、町会指定の緊急避難場所周辺の道路はいずれも車のすれ違いが困難なため、徒歩による避難を原則とし、車の利用が必要不可欠な避難行動要支援者については車を緊急避難場所の近くの駐車場をとめて避難勧告等が解除するまで戻らないことが重要であることが明らかとなった。
- 土砂災害に対して堅牢な建築物に居住する避難行動要支援者については、その近隣住民が避難準備情報・高齢者等避難開始時に大雨時指定避難場所ではなく、その建築物の上階または谷側への避難支援を開始するなど、避難行動要支援者の具体的な支援方法について話し合うことができた。
基本情報
開催年月日 | (第1回)2016年9月5日 (第2回)2016年10月10日 (第3回)2016年12月20日 (第4回)2017年5月19日 |
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開催場所 | 中野区農村センター |
主催 | 秩父市役所、上白久町会 |
協力 | 明治大学山本俊哉研究室 |
参加対象 | (第1回)町会役員、市職員等 (第2回)町会役員、消防団員、地域住民、市職員等 (第3回)町会役員、市職員等 (第4回)町会役員、市職員等 |
参加者数 | (第1回)約25名 5班構成 (第2回)約50名 5班構成 (第3回)15名 (第4回)12名 |
新聞掲載 | 国土交通省「ハード・ソフト一体となった防災・減災対策による安全・安心の確保 https://www.mlit.go.jp/toshi/daisei/content/001407880.pdf |
学会発表 | |
佐藤光司・山本俊哉・大崎元・木下勇「秩父市における地区防災計画立案の横展開に関する特徴 多様な災害からの逃げ地図の作成・活用に関する研究 16」https://www.aij.or.jp/paper/detail.html?productId=622227 |
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リンク先 | |
国土交通省「ハード・ソフト一体となった防災・減災対策による安全・安心の確保 秩父市地域防災計画・地区防災計画編 |
ワークショップの様子
緊急避難場所の候補の安全点検風景
ワークショップ冒頭の町会長挨拶
WS冒頭の土砂災害に関する説明
逃げ地図づくりの作業風景
班ごとに作成した逃げ地図の発表
作成した逃げ地図の周知方法について意見交換