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逃げ地図とは?

なぜ、逃げ地図づくりか?

東日本大震災を教訓に、各地域において、災害のリスクと地域社会の脆弱性を共有する重要性が認識されました。しかし、地域に暮らす人々がそのリスクを適切に理解し、自助・共助の脆弱性を充分に認識できているとは言い難い状況にあります。
その原因のひとつに、行政がハザードマップを作成しても、災害を他人こととして捉え、見たこともないという現状があります。また、その地域の災害リスクや地域の脆弱性を認識するリスクコミュニケーションの場と機会が乏しいという課題があります。さらにはその場をつくり、舞台回しするファシリテーターの担い手が不足している問題もあります。DIG(ディグ ※災害図上訓練)が地図を使ったリスクコミュニケーションの方法として広く普及していますが、ファシリテーターによって方法や成果が異なるという不安定さを抱えています。
こうした状況下、逃げ地図づくりという学びと課題解決の手法に大きな期待が集まっています。

災害時の地域課題を共有する「逃げ地図」づくり(山本俊哉)

逃げ地図づくりの⽬的・趣旨

逃げ地図づくりは、それを通したリスクコミュニケーションの促進に基本的な目的があります。地域の防災上の課題や避難に関する取り組みの熟度に応じて、いくつかの段階があるといえます。
逃げ地図づくりを通した防災意識の啓発は、その第一歩です。地域のハザードマップをよく見て、防災や避難を自分ごととして認識し、地域の課題について話し合う機会を創出するという初歩的な段階です。
ある程度防災意識が高い地域では、避難場所・避難経路の検討をはじめ、徒歩や車による避難方法、要援護者の避難支援など、避難に関する課題を抽出して共有するという目的で逃げ地図づくりが実施されています。例えば、陸前高田小友地区では、車を使った避難に関する課題を具体的に把握するため、車による避難と徒歩による避難の2グループに分かれて逃げ地図を作成し、交差点における消防団による避難誘導方法、避難経路を表示する標識の設置等の課題を抽出しました。
すでに避難対策を講じている地域では、市町村などが指定した避難場所が適切な位置にあるかを検証することを目的として逃げ地図づくりが行われています。例えば、高知県黒潮町芝地区では、津波避難タワーやバイパス道路の整備に伴う避難時間の短縮効果を検証するために逃げ地図づくりを行いました。
さらに一歩進めた事例として、逃げ地図づくりを起点として、避難に関する計画を策定した地区もあります。その計画は、避難場所の指定や避難経路の整備、要援護者の避難方法などいろいろありますが、秩父市久那地区のように、逃げ地図づくりを通して地区防災計画を定めた地区や、葛飾区堀切地区のように、道路を拡幅整備する法定地区計画を定めた地区もあります。

災害時の基本は「逃げる」〜災害から命を守るための逃げ地図を作ろう〜

全国に広がる住民参加ワークショップ「逃げ地図」

逃げ地図づくりの特徴

逃げ地図づくりは次の5つの特徴があります。

1.
最も近い安全な場所までの
時間と経路がひと目でわかる

逃げ地図は安全な場所からの時間(距離)を3分ごとに色分けした地図なので、パッと見ただけで、どこが避難上危険かということがすぐに分かり、最も近い安全な場所までの時間と経路が“ひと目でわかる”ことで、防災意識の向上に役立ちます。

2.
子どもからお年寄りまで
誰でも一緒に参加してつくれる

地図を読めれば、逃げ地図は子どもからお年寄りまで誰もが参加して一緒に成果を出せるワークショップで、後期高齢者の歩行速度を基準にすることで、世代間をつなげ、地域の活力を高める好機になります。

3.
避難場所や経路を点検し、
防災上の課題を出し合える

逃げ地図づくりの過程で、ハザードマップ等のリスク情報、指定した避難場所やそれに至る経路を地図上で点検する機会になり、避難行動用支援者の対応や、避難障害の改善など、地域が抱えている課題を出し合うことができます。

4.
避難対策を実施すると
色が変わり、やる気が出る

逃げ地図は、避難目標地点を増やしたり、避難障害地点を減らすと、避難時間が短縮され、色が安全側に変わります。つまり、避難対策を実施すると色が変わり、防災対策を行うことの“やる気”に繋がります。

5.
逃げ地図づくりを起点に
防災まちづくりが進む

逃げ地図づくりがきっかけとなって、避難階段や避難建物が増えたり、その地域の特性に応じた地区防災計画や、避難に安全な道路整備を進める地区計画を策定するなど、ハードとソフトの両面で防災まちづくりが進みます。

木下勇・寺田光成「逃げ地図:避難地形時間地図からの安全・安心な地域社会づくり」

逃げ地図づくりの開発と
普及の経緯

逃げ地図づくりの基本的手法(ワークショップも含む)は、大規模建築の設計を通して避難計画に精通している日建設計のボランティア部の有志が“避難地形時間地図”として東日本大震災の経験をもとに開発しました。地域住民との逃げ地図づくりワークショップは、津波による傷跡が残っていた陸前高田市長部地区で2012年4月に初めて開催されました。
その後、明治大学山本俊哉研究室と千葉大学木下勇研究室(当時)が共同して科研費やJ S T(科学技術振興機構)の外部競争研究資金を獲得し、逃げ地図づくりの手法を検証・評価して、日建設計のボランティア部とともに全国各地で実践的な研究を重ねてきました。津波だけでなく、土砂災害や洪水、火災にも対象を広げた研究成果は、このサイトに搭載されている「逃げ地図づくりワークショップマニュアル」や「防災教育のための逃げ地図づくりマニュアル」にまとめられました。
J S Tなどの研究成果の社会実装機関として設立された一般社団法人子ども安全まちづくりパートナーズ(代表理事:山本俊哉)が加わった「逃げ地図づくりプロジェクトチーム」は、全国各地で実施した逃げ地図ワークショップの事例をアーカイブとしてまとめ、マニュアルとともにWEBサイトに公開し、同チームが赴かなくても逃げ地図づくりが展開できるようにしました。こうした活動が高く評価され、大学等の専門教育における人材育成だけにとどまらず、子どもや市民を対象にした防災まちづくりの教育にも大きく貢献したとして、「逃げ地図づくりを通した世代間・地域間のリスクコミュニケーションの促進」と題した業績で、日本建築学会2018年教育賞(教育貢献)を受賞。そして、2019年11月には「災害から命を守る『逃げ地図』づくり」(ぎょうせい)を出版し、同書は各種の新聞雑誌で取り上げられ反響を呼び、防災専門図書館の推薦図書にも選ばれました。
2017年、逃げ地図づくりネットワーク全国大会+展示会を開催し、2019年には日本青年会議所が全国展開したことで、逃げ地図づくりは全国19都道府県39市区町(2019年11月現在)に広がりましたが、コロナ禍に伴い、計画されていた逃げ地図づくりワークショップは次々と中止・延期され、子ども安全まちづくりパートナーズも一般社団法人の解散を余儀なくされました。他方、損保ジャパンなど逃げ地図づくりワークショップの普及に取り組む企業も出てきたことから、2023年4月に認定NPO法人日本都市計画家協会に、逃げ地図研究会を設立し、「逃げ地図づくりプロジェクトチーム」のマニュアルなどを引き継ぎ、逃げ地図づくりの普及に取り組んでいます。

多様な災害からの逃げ地図作成を通した世代間・地域間の連携促進

災害時、どこに避難する? 11都県に広がる「逃げ地図」づくり(suumoジャーナル)

逃げ地図づくりに携わる人たち

逃げ地図づくりを先導してきた方々が
感じてきたことをここでお伝えします。

阿部正人
宮城県気仙沼市立面瀬小学校教諭
逃げ地図づくり経験のある私一人で進行することは苦労が多く、他の教職員の事前研修が必要ではありますが、中学生が理解できれば、小中学生だけのグループワークで逃げ地図を作成できることができました。参加した中学生によると、小学生は安全な場所や危険な場所をしっかりと見つけていたこと、高齢者は思ったよりも避難に時間がかかるため、いざという時には手助けしたいとコメントをしていました。
今西文明
高知県黒潮町海洋森林課課長
住民からは「面白かった。わかりやすかった」との意見がよせられました。また、出来上がった地図を振り返るなかで、想定していた避難路が時間的にも厳しく、途中で危険な箇所もありルート変更もありうる等、日々の生活のなかで、気がつかない点など多くの課題が出され、大変有意義な機会であった。後の避難路整備や地域防災活動が各地域で加速化されていくきっかけとなりました。
進士弘幸
静岡県下田市立朝日小学校評議員・建築家
海辺の小学校で、総合学習の一環として毎年5年生が逃げ地図づくりに取り組んでいます。地図そのものが理解できるのか当初不安がありましたが、やってみると意外とみんな理解できているようで何の心配もありません。自分達が普段登校している道や学区全般の広範囲にわたる道の色塗りを、集中して予定時間内に一気に完成させます。そして気が付いたことについてその場で話し合いまとめて、それぞれの班ごとに発表しますが、毎回新しいことに気づかされ感心させられます。
藤田玲生
広島県立瀬戸田高校教諭
逃げ地図づくりを勧める第一の理由は、とても簡単ということ。マニュアルは薄く、難しい言葉は一切ありません。準備物や時間配分、進め方も書かれています。少し大変なのは地図と距離を測る紐の用意くらいで、コストもそれほどかかりません。第二に、教育ツールとして活用しやすいことが挙げられます。児童・生徒に役割を与え、達成させることで、非認知スキルの向上に繋がります。生徒がやり方を覚えて地域で実践することで、小中高生や住民との連携ができ、地域教育にも繋げることができます。
「災害から命を守る『逃げ地図』づくり」(ぎょうせい)から一部抜粋 所属肩書は2019年11月当時
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