' 秩父市久那地区 | 逃げ地図

事例紹介

埼玉県 秩父市久那地区

対象災害
  • 土砂災害

経緯と目的

  • 久那地区の緊急避難場所である久那小学校が土砂災害警戒区域内にあり、国土交通省砂防部の「土砂災害警戒避難ガイドライン」において、市町村は安全な避難場所を確保することが定められていることから、秩父市危機管理課では当時、久那小学校を大雨時の避難場所に指定することに不安があった。
  • 一方、久那小学校の現校舎の建設当時をよく知る地元町会長は、土砂災害からの安全性に留意して校舎と付近の沢の堰堤を整備したことから大雨時にも同小学校の利用を主張していた。他方、他の町会からは久那小学校への避難中に被災するおそれがあるという意見もあった。
  • そこで、久那地区を構成する3町会が共同して避難時の取り決めを検討するための材料として、津波からの逃げ地図づくりの手法を応用して、土砂災害からの逃げ地図づくりを試みることにした。

方法と内容

(第1回ワークショップ)
・ 土砂災害からの逃げ地図づくりは本邦初の試みであるため、秩父市の担当課職員と町会長らコアメンバーのみで試行した。埼玉県が作成した土砂災害のハザードマップを入手し、ワークショップ参加者が協議をして土砂災害からの避難目標地点と避難障害地点を設定し、避難目標地点に至る避難経路を色分けして避難方向に矢印を記入した。
・ 土砂災害からの避難目標地点は、第一義的には土砂災害警戒区域外であるが、そうすると色分けする意味がないため、夜間雨天時に避難可能な公的施設又は民家等として住民間の協議に委ねた。
・ 避難障害地点は第一義的には土砂災害警戒区域内であるが、避難開始時刻によっては通行可能であり、周囲に民家のない道路は土砂災害警戒区域に指定されていないことから、避難障害地点の設定は過去の土砂災害発生の履歴や沢の位置等を踏まえ、住民間の協議に委ねた。

(第2回ワークショップ)
・ 町会単位で逃げ地図を作成することとし、久那小学校のある中久那町会は小学校への避難する班と避難しない班の2班に分かれた。ワークショップの開催にあたっては、まず土砂災害のイメージと基礎的知識の共有が必要であることから、前年夏の広島の土砂災害について地図と写真を使って解説した後、土砂災害とその安全対策についてレクチュアした(約20分間)。
・ 次に、町会単位に4班(6〜8人/班)に分かれ、土砂災害ハザードマップをよく見ながら土砂災害警戒区域を地図上でなぞり、避難障害地点を設定した上で、夜間雨天時に避難可能な避難目標地点を設定した。その上で、津波からの逃げ地図づくりと同様、避難目標地点から逆算して3分ごとに避難経路を色分けし、避難方向の矢印を記した。作成された逃げ地図を見ながら避難方法について意見を交換した(約60分間)。
・ 各班の逃げ地図づくりの成果を全員で共有するため、発表会を行い、今後の取り組みについて意見交換した(約30分間)。

(第3回ワークショップ)
・ 町会単位に分かれ、土砂災害危険箇所(土石流危険区域、急傾斜地崩壊危険区域、地滑り危険箇所等)と過去の災害履歴、これまでの土砂災害に関する自主防災対策について振り返った後、第2回ワークショップで出されたコメントを含めてリライトした逃げ地図を見ながら、各町会の緊急避難場所と避難方法について約1時間意見交換を行い、その成果を発表しあった。
・ これらの成果を住民に還元して周知を図るため、同年8月の防災訓練にて逃げ地図づくりを通して明らかになった緊急避難場所と避難方法に関する住民説明会を行うことにした。

(第4回ワークショップ)
・ 前年度の連続3回のワークショップの成果を地区防災計画の立案に活かすには、作成した逃げ地図に記載された避難場所や避難経路について現地で点検を行うべく、町会ごとにまち歩きを行い、その後、逃げ地図を囲んで避難準備情報・高齢者等避難開始時、避難勧告時、地震発災時等の各時の避難場所と避難方法などをワークシートにまとめた。

(第5回ワークショップ)
・ 土砂災害防止法の改正に伴う基礎調査結果が2017年4月に県から新たに発表されたことに伴い、久那地区の土砂災害危険区域が拡大した。それに伴い、町会指定の大雨時緊急避難場所を見直す必要について協議した結果、上久那町会が協定を結んだ個人宅のひとつを指定避難場所から外すことにした。久那地区防災計画「土砂災害編」の変更はないが、すでに作成した土砂災害からの逃げ地図は上記の点を反映すべく修正を行うことにした。

成果と課題

  • 作成された各町会の逃げ地図には、早期に避難すべき区域(土砂災害警戒区域と土石流危険区域が重なり、過去に災害履歴のある区域)と、雨天時には避難せず自宅にとどまっていた方がよい安全区域が明示された。また、避難目標地点と避難障害地点の検討をもとに、土砂災害からの緊急避難場所が設定された。公共施設や各区の集会所の他、一般の民家や旅館等も候補としてあげられた。
  • 従来、暗黙の了解で各区の集会所に避難するとしていたが、豪雨時にはその集会所に避難するよりも民家または隣の区の集会所に避難した方が適切であるという取り組みも検討された。さらには、ある集会所の収容人数を超えた場合は隣の区の集会所を利用するという従来の地域コミュニティ単位を超えた避難方法が話し合われた。逃げ地図で検討した避難方法は、避難勧告時の対応であり、避難準備情報・高齢者等避難開始時には要援護者を車に乗せて指定された避難所・避難場所に避難する重要性も確認された。
  • 2015年8月に行われた久那地区の防災訓練において各町会長らが参加住民に逃げ地図づくりの成果を説明し、逃げ地図づくりワークショップで候補にあがった緊急避難場所(民間施設を含む)や避難のタイミングと避難方法について周知することができた。
  • 作成された逃げ地図を持って点検まち歩きを行うことで、避難場所や避難経路の安全性を確認し、ワークシートにまとめることで避難のタイミングや避難行動要支援者の避難方法について確認することができた。これらの成果をもとに、久那地区防災計画(案)を立案し、①平時から進めておくべきこと、②避難準備情報発令時の行動、③避難勧告及び避難指示発令時の行動、④避難者及び避難所の対応の4章で構成し、このうち①〜③は、各町会がとるべき対応と住民がとるべき対応を分けて、具体的な行動規範を示した。作成した逃げ地図については、各町会は平時から広く住民に周知し、住民は指定避難場所を確認しておくこと、避難準備情報等の発令時には逃げ地図を活用して町会指定避難場所に向かうことを明文化した。

基本情報

開催年月日 (第1回)2015年3月18日
(第2回)2015年5月18日
(第3回)2015年6月29日
(避難訓練)2015年8月30日
(第4回)2016年9月4日
(第5回)2017年5月19日
開催場所 第1回目:栗原公会堂、第2〜5回目:秩父市久那公民館
主催 秩父市役所、久那町会連絡協議会
協力 明治大学山本俊哉研究室、子ども安全まちづくりパートナーズ、日建設計ボランティア部
参加対象 町会役員、消防団、市職員
参加者数 ・第1回(参加者:約10名)
・第2回(参加者:約30名 4班構成)
・第3回(参加者:約30名 4班構成)
・第4回(参加者:約50名 3地区計10班構成)
・第5回(参加者:16名)
学会発表

天野友貴・山本俊哉・井上雅子・大崎元・木下勇「土砂災害からの逃げ地図作成の可能性と課題 -多様な災害からの逃げ地図の作成・活用に関する研究(2)-」、日本建築学会大会(九州)学術講演梗概集、2016年8月

天野友貴・佐藤光司・山本俊哉・大崎元・羽鳥達也・木下勇「土砂災害からの逃げ地図作成ワークショップのプログラムの留意点:多様な災害からの逃げ地図の作成・活用に関する研究(8)」、日本建築学会大会(中国)学術講演梗概集、2017年9月

佐藤光司・天野友貴・山本俊哉・大崎元・羽鳥達也・木下勇「土砂災害からの逃げ地図を活用した地区防災計画の立案:多様な災害からの逃げ地図の作成・活用に関する研究(9)」、日本建築学会大会(中国)学術講演梗概集、2017年9月

リンク先

リスク対策.com 全国に広がる住民参加ワークショップ「逃げ地図」 埼玉県秩父市が地区防災計画に導入 https://www.risktaisaku.com/articles/-/2357

秩父市地域防災計画・地区防災計画編 https://www.city.chichibu.lg.jp/secure/6657/bousaikeikaku4_kuna.pdf

秩父市久那地区防災計画 https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/49399/chikubousaikunachiku.pdf

ワークショップの様子

WS冒頭に土砂災害に関するレクチャー

避難経路の色塗り作業風景

作業終了後に意見をまとめる

参加住民が意見を出し合う

班ごとに発表

逃げ地図点検まち歩きの様子

事例紹介トップ
To Top