事例紹介
東京都 葛飾区堀切地区
- 対象災害
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- 火災
経緯と目的
- 葛飾区堀切地区は河川や大通りに囲まれた面積68.5haの地域である。木造密集市街地であり、不燃領域率が50%、老朽木造棟数率が51.5%と地震火災の危険性が非常に高い。火災危険度はランク5を有し、東京都の不燃化特区に指定されている。
- 堀切地区では、2006年に堀切地区まちづくり検討協議会が立ち上がり、2010年以降はまちづくり推進協議会に名称を変えて密集市街地整備事業と法定地区計画について検討を重ねていた。防災に関しては、同協議会の防災検討部会を中心に、堀切防災コミュニティ環状道路(幅員6m以上)の整備検討を進めていた。
- こうした状況下、逃げ地図づくりを火災にも応用して実施することを同防災検討部会に提案したところ、道路整備や避難計画の検討のツールになりうるとして火災からの逃げ地図づくり研究の協力を得た。
- ワークショップは3回行われ、1回目は逃げ地図づくりの検討区域の絞り込み、2回目は検討区域における避難に関する検証、3回目は避難に関する課題の整理を目的として開催した。
方法と内容
- 一般に逃げ地図づくりワークショップは地域住民等の関係者が逃げ地図を作成しながら現状把握や課題の発見といったリスク・コミュニケーションを図って行くが、火災からの逃げ地図は試行段階であり、かつ道路の密度が高いために地区全域の色塗りに相当な時間がかかることが予想された。また、火災発生時の最悪のケースでは広域避難場所が避難目標地点になることの合意は得ているが、火災はどこで発生するかの想定が難しい。そこで、第1回ワークショップでは予め広域避難場所(荒川河川敷)までの逃げ地図を作成し、それを住民参加者に提示して意見交換を行った。また、参考資料として地震時の延焼火災の危険性の高い(隣棟間隔6m以内の木造建物が5,000㎡以上連担している)区域の分布図(火災危険区域図)を用意し、2回目以降のワークショップでの検討区域を検討した。
- 第2回は、第1回のワークショップで絞り込んだA区域とB区域の避難方向と避難者集中路線を検証するため、①広域避難場所に通じる橋と広域避難路への避難方向を検討するグループ、②避難に関する道路整備の効果を検証するため、堀切小学校を避難目標地点とし通行不可路線を任意に設定して逃げ地図を作成・検討するグループ、③避難に関する道路整備の効果を検証するため、A区域の逃げ地図(通行不可区間なし)を作成・検討するグループに分かれて行った。
- 第3回は、前回までに作成した「広域避難場所」と「広域避難路への逃げ地図」に、新たに避難目標地点として「広域避難路と地区防災道路」、「小学校などの避難所や一時避難場所」を加えた計4種類の逃げ地図を比較し、3グループに分かれて、広域避難路と地区防災道路と身近な避難路と緊急避難路の4つのレベルの避難経路の問題点と、より円滑な避難を可能にするための対策の課題を検討した。
成果と課題
- 第1回ワークショップでは、荒川河川敷を避難地点とした逃げ地図と火災危険区域図地図を防災部会メンバーで比較・検討した結果、広域避難場所に直接向かうと火災危険区域が障害になることから広域避難路に迂回した方が良いことや、指定避難所の堀切小学校周辺に避難計画上の課題があることが明らかになった。
- 第2回ワークショップでは、B区域では最短距離の避難方向とは異なる向きへの避難行動が適切であること及び、地区防災道路の整備の重要性が明らかになった)。また、根拠に基づき優先的に改善すべき箇所を具体的に指摘することができた、広域避難路で区切られた面積の狭いA区域では、逃げ地図の色に変化は見られず家屋の倒壊による道路の閉鎖を考慮しなければ、避難所要時間に影響は少ないことが明らかになった。
- 第3回ワークショップの結果、「まずは火災危険区域から離れ、それぞれ広域避難路の方向に逃げることが重要であること」、「そのために地区防災道路のボトルネックを解消すること」が確認され、小学校などの空地を経由して段階的に避難する基本方針が明確になった。さらに、その実現するための具体的アイディアも提案された。例えば、地区防災道路とスクールゾーンは、密集事業を活用して老朽空き家を除去することで避難上のボトルネックを解消する。ガードレールは撤去して避難経路の幅員を確保するが生活道路での車両の交通沈静化を促すためハンプなどを設置して速度抑制を図る。路面は塗料や照明などで広域避難路や小学校の方向を視覚化し、地区防災道路と避難所などの骨格を明示するなどである。
- 3回連続のワークショップを通して、道路構造が複雑で密である木造密集市街地では、色塗りワークに労力がかかる割には、目標避難地点が多く存在するため、現行案と改善案による色の変化が小さかったが、逃げ地図と火災危険区域地図と比較することで課題をより明確にすることができ、複数の逃げ地図を用意したりすることで、住民協議会が避難に関する道路整備などの検証を行い、地区防災道路のボトルネックや老朽空き家の除却などを具体的に検討できるなど、逃げ地図づくりがリスク・コミュニケーションの向上に有意義な手法であることが明らかになった。ただし、その場合は、地区防災道路の計画検討など住民協議会の活動の熟度とそのサポート体制の構築が必要である。
- 堀切地区のワークショップの成果は、2016年3月に開催された堀切地区まちづくり推進協議会で発表された。また、中野区の大和町まちづくり報告会や墨田区の向島学会でも紹介され、逃げ地図を通して地域間の交流が図られた。
基本情報
開催年月日 | (第1回)2015年10月22日 (第2回)2015年11月30日 (第3回)2016年 1月22日 |
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開催場所 | 葛飾区堀切地区センター |
主催 | 堀切地区まちづくり推進協議会防災検討部会 |
協力 | 明治大学山本俊哉研究室、子ども安全まちづくりパートナーズ |
参加対象 | 堀切地区まちづくり推進協議会防災検討部会メンバー |
参加者数 | いずれも10〜20人程度 |
学会発表 | |
原田将吾・大崎元・山本俊哉・木下勇「地震大火からの逃げ地図作成の可能性と課題-多様な災害からの逃げ地図の作成・活用に関する研究(3)-」日本建築学会大会、福岡大学、2016年8月25日 |
ワークショップの様子
第1回ワークショップの様子
第2回ワークショップの様子
広域避難場所への逃げ地図(左)と火災危険区域図(右)
堀切地区の広域避難路への逃げ地図
堀切地区第2回WSに作成した逃げ地図の比較・検討
中野区大和町まちづくり報告会でのポスター展示