事例紹介
静岡県 下田市吉佐美地区
- 対象災害
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- 津波
- 土砂災害
経緯と目的
- 吉佐美地区では、地元の自主防災会と吉佐美区(自治会)が東日本大震災後に各集落での検討結果をまとめて合計16カ所(2014年4月時点)の緊急避難場所を指定した。RC造3階建てで屋上のない朝日小学校は避難場所に設定せず、その裏山の多景山を避難場所として設定して避難広場・避難階段を整備し、備蓄倉庫や避難看板等を自ら設置した。その他にも近くの裏山に自ら避難階段を整備して緊急避難場所を増やしている部落がいくつかあった。
- こうした状況下、逃げ地図づくりプロジェクトチームの一員の学生が2013年8月に朝日小学校で開催された防災キャンプに宿泊参加して逃げ地図づくりを紹介した。それを受けて朝日小のPTA会長を務めた地元建築家のS氏が吉佐美地区の逃げ地図を自発的に作成して後に見せてくれた。それによると、吉佐美区が指定した緊急避難場所が適切な位置に設置されていることが検証された。海岸付近は津波避難リスクが高く、海岸付近の高台が私有地によって閉鎖されていること等から、海水浴客や漁業従事者の津波避難が課題であることが明らかになった。
- 2014 年 2 月に下田中学校で行った逃げ地図ワークショップの中で「崖崩れがあると通れない」という中学1年生からのコメントがあったことから、S氏が新たに津波からの逃げ地図に土砂災害警戒区域図を重ねた地図を作成したところ、吉佐美区が指定した緊急避難場所23 カ所中 3 カ所が急傾斜地崩落危険箇所等、1 カ所が土石流危険渓流等と重なっていた。また、急傾斜地崩落危険箇所等として色塗りされた区域内に道路が多く見られた。
- そこで、逃げ地図プロジェクトメンバーと地元建築家S氏が共同して現地調査を行い、緊急避難場所の妥当性について検証するために、土砂災害を考慮した津波からの逃げ地図づくりワークショップを開催した。
方法と内容
- 2014年12月11日に開催した逃げ地図づくりワークショップは、中学生から 80 歳代までの住民約20 名が集まり、土砂災害を考慮した場合とそうでない場合の2種類の逃げ地図を作成した。
- 土砂災害警戒区域については、現地調査した結果、地震発生直後に全ての道路が土砂災害で通行不能になる確率は低いとして、どこが避難障害地点になるかはワークショップ参加者の判断に任せることにした。
成果と課題
- 津波からの逃げ地図と津波+土砂災害を考慮した逃げ地図を比較することで、住民らが自ら負担して避難階段を整備した西部地区の緊急避難場所も、土砂災害で通行不能になると判断されたが、最寄りの緊急避難場所までの避難時間が3分又は 6 分以内から 6〜9 分間に延びるが、土砂災害で緊急避難場所を失っても他の緊急避難場所に 10 分以内で避難できることが共有された。
- 北部地区では、仮に擁壁の崩落による道路閉塞が生じても、ワークショップで想定した1カ所であれば、緊急避難場所までの避難時間はあまり変わらないことが共有された。一方、南部地区では、ワークショップで想定した 4 カ所が通行不能になると逃げ場を失うが、私有地を通れば、避難時間を大幅に短縮できることがワークショップで提案された。
- 逃げ地図づくりを通して、集落単位の避難ではなく、より近く安全な場所への避難を第一に考える必要であり、指定の避難場所への避難にとらわれないことが重要との意見が出された。また、参加した中学生からはルールに縛られすぎると危険な場合があるという賢明な意見も出された。
- 新たに緊急避難場所になりうる場所が二か所あげられた。また、私有地を通ることで被災時に 避難場所になりうる場所についても指摘があった。
- 避難経路について、地図上に記載されていない農道や畦道が多くあることが指摘され、逃げ地図づくりにあたってはこれらを拾い上げる必要性が明らかになった。また、高齢者などには避難が厳しいとされる経路が計4か所存在し、その対策が検討課題となった。
基本情報
開催年月日 | 2014年12月11日 |
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開催場所 | 吉佐美区事務所 |
主催 | 吉佐美地区住民有志 |
参加対象 | 吉佐美地区住民20名(中学生〜80代まで) |
参加者数 | 20名(4班構成) |
学会発表 | |
山中盛・山本俊哉・冨田靖寛・木下勇「地域住民による逃げ地図作成を通した緊急避難場所の妥当性の検証 逃げ地図を活用した津波防災まちづくりに関する研究(6)」日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集, 2015年9月6日 |
ワークショップの様子
土砂災害警戒区域と逃げ地図を重ねた地図を見ながら、逃げ地図を作成。
土砂災害警戒区域と逃げ地図を重ねた地図を見ながら、逃げ地図を作成。